心理学と占星術

占いの心理学

まず、「占い」と「占い師」を分けて考える必要がある。「占い師」とはそれ自体が元型(=「魔術師」「魔女」元型)である。「占い師」元型には創造性や霊感の影に詐欺・ペテン師・ほら吹き・知ったかぶり・誇大広告・贋物・紛い物・子供だましのインチキ商売といったイメージが付きまとう。占星術のロゴスとテクネーについての心理学は占い師元型との無意識的同化ではない。

占いとは一定の規則のもとに体系化された象徴的記号、ウィトゲンシュタインの言う特定のサークルの中でだけ意味を持つ言語ゲームである。なので「占いを信じる」と言うとき正確には「占い師」を信じているということになる。占い(言語)は「使う」ことはできるが「信じる」ものではない。「言語」を操る人間、あるいはその情報の信憑性を疑ったり信じたりするのである。

占星術をカウンセリングやサイコセラピーのテクニックとしてクライアントワークに使うことはできない。心理学的な占星術のコンサルテーション、ブリーフカウンセリングとしての占星術は可能だが、心理カウンセリングやサイコセラピーとはセッションの目的とゴール、クライアントのニーズが異なる。

しかし占いブームがもてはやされる昨今、サイコセラピーのセッションに占いの話を持ち込むクライアントは少なくないはずである。占いについて専門的な知識や経験がないならば、心理療法家はクライアントの占い話をウィニコットの移行対象(transitional object)として話半分に聞き流し、むしろ創造的な遊戯空間が出来上がりつつあることを確認し、クライアントとの交流を活性化してゆくのが最良の構えであろう。クライアントと無意識的に同化して占い師元型の投影・被投影を避けるためにもセラピストは占術のロゴスとテクネーについての心理学を知っておく必要があるのではないか?各種の占いはそれぞれに特定のテクネーとロゴスを持っており一般化することはできないが、ここでは代表的な例として西洋占星術を取り上げて考えてみたい。

精神分析学

分析心理学者ユングにとって錬金術や占星術は近代科学以前の単なる誤謬に満ちた試行錯誤ではなかった。錬金術師たちは物質の化学変化に心理的内容を無意識的に投影していたのであり、占星術師たちは星の動きに哲学的な思索を無意識に投影していたのである(projected psychology)。投影内容を引き戻すこと、すなわち錬金術や占星術の脱心理学化(depsychologizing)が近代科学の誕生であった。引き戻された投影内容を個性化過程の歴史的表象として分析することが近代科学を補完する精神分析学の役割だとユングは考えていた。

占星術の原理は因果律では説明できない意味のある偶然の一致(シンクロニシティー)=共時性の符号(元型的象徴の記号)、とユングは考えた。

実存分析学

私が最も尊敬する占星術師の一人マイク・ハーディングは、マルティン・ハイデガー、ルドヴィッヒ・ウィトゲンシュタイン、ジェームズ・ジョイス、ジャック・ラカンの研究者であり、実存分析学を専門とする心理療法家でもある。

ハーディングの断片的な散文とも言える思想をここで体系的に纏め上げることは到底不可能なのだが、強いて言えば、ハーディングにとって占星術は心理的な投影ではなく言語学や哲学、記号論の研究対象となる言語であり、解釈学(hermeneutics)である。占星術の解釈は現存在の状態を開示する実存的な時間性の言語なのである。そしてこの言語を扱う際には、ウィトゲンシュタインが分析哲学で日常言語を扱ったのと同様の細心の注意が必要である。ラカンの構造主義では、無意識は言語のように構造化されていると考えるが、占星術は構造化された無意識の言語である。

神話学

構造人類学者クロード・レヴィ=ストロースは占星術的な薬草の分類法を例に挙げて、トーテム的な分類法の論理について説明している。分類は出鱈目に行われるのではなく、そこには今日の分類学(taxonomy)にも匹敵しうる一貫した論理性を認めることができる。

占星術は科学的思考とは異なる神話的思考である。科学的思考が構造から出来事を導くのに対して、神話的思考は出来事や出来事の残滓から構造を作り出す。

レヴィ=ストロースは現代の精神分析家と部族社会のシャーマンを対比させる。前者が患者の「個人的な神話」を聞く立場にあるのに対して、後者は患者に「部族の神話」を話して聞かせる立場にある。しかし分析が進み転移の現象が起こると、分析家は患者の言葉を語り出す。シャーマンの儀式では逆にシャーマンの言葉が患者に転移して患者は解決の道を見出す。

厳密にはシャーマンと占星術師を同じにすることはできないが、レヴィ=ストロースの分析は占星術とカウンセリングの間にある隔たりをも示唆している。

参考文献

Harding, Michael and Charles Harvey. Working With Astrology: The Psychology of Harmonics, Midpoints and Astro*Carto*Graphy. London: Penguin, 1990.

Harding, Michael. Hymns to the Ancient Gods. London: Penguin, 1992.

Jung, Carl Gustav. “Psychological Types.” 1921. The Collected Works of C. G. Jung. Vol.6. London: Routledge & Kegan Paul, 1971 (『心理学的類型』Ⅰ・Ⅱ ユング・コレクション1・2 高橋義孝・森川俊夫・佐藤正樹訳 人文書院 1986/87;『タイプ論』 林道義訳 みすず書房、1987).

---. Aion: Research into the Phenomenology of the Self. Princeton, NJ: Princeton UP, 1979 (『アイオーン』 ユング・コレクション4 野田倬訳 人文書院 1990).

---. C.G. Jung Letters. 2 Vols. Ed. Gerhard Adler. Trans. R. F. C. Hull. London: Routledge, 1973 & 1976.

Lévi-Strauss, Claude. Anthropologie Structurale. Paris: Librairie Plon, 1958 (Structural Anthropology. Trans. Claire Jacobson and Brooke Grundfest Schoepf. New York: Basic, 1963; 『構造人類学』 荒川幾男・生松敬三・川田順三・佐々木明・田島節夫訳 みすず書房 1980).

---. La Pensée Sauvage. Paris: Librairie Plon, 1962 (The Savage Mind. Trans. George Weidenfeld. Chicago: U of Chicago P, 1966; 『野生の思考』 大橋保夫訳 みすず書房 1980).

中島達弘 「時を数えて砂漠に立つ-実存主義・グノーシス主義と現代占星学」 (『ユリイカ』 25号、1993年6月号) 189-201頁

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